Special Interview

糖尿病患者が治療を継続できるために
オンライン診療の可能性を広げたい

関東労災病院 浜野久美子 医師

20歳以上の日本人の4人に1人が糖尿病またはその予備軍であるといわれています(平成28年国民健康・栄養調査報告より)。糖尿病の治療法そのものは大きく進歩しているにもかかわらず、軽症では自覚症状がほとんどないため、治療を受けないまま放置してしまったり、治療を中断してしまったりする患者さんは多くいます。そうした患者さんが少しでも治療を受けやすくするための方法の一つとして、オンライン診療に期待を寄せているのが、浜野久美子医師です。MediTelを試験導入した上で見えてきた、糖尿病治療におけるオンライン診療の可能性について、浜野医師にお話しいただきました。

糖尿病が疑われる40代男性の半分近くが通院していない

糖尿病の患者さんは、予備軍も含めると日本で約2,000万人もいると推定されています。この数字には、軽症から重症の方まで、多くの段階の人が含まれています。しかし、病院で診ることが多いのは、足の壊疽や心筋梗塞を発症した人など、重症の患者さんです。こういった患者さんは入院期間が長くなり、退院後の生活にも大きな影響を及ぼします。働き盛りの年代では、復職するときにも制約を受ける場合もあります。直接の治療費だけでなく、本来得られるべき収入を得られなくなり、生涯にわたって経済的に大きな損失を被ってしまいます。

それにもかかわらず、糖尿病の治療を受けなかったり、途中で治療を止めたりしてしまう患者さんが後を絶ちません。平成28年国民健康・栄養調査報告によると、糖尿病が強く疑われる人のうち、23.4%が治療を受けていません。40代男性に限ると、なんと48.5%もの人が治療を受けていないのです。
なぜ、働き盛りの40代男性は治療を受けないのでしょうか。理由はいくつかあります。まず、軽症のうちは自覚症状がほとんどないので、実感がわかないと思われます。その上、通院する時間がないことも理由に挙げられます。私が研究責任者を務めた労働者健康福祉機構(現:労働者健康安全機構)の「病院機能向上研究」で患者さんにアンケートを行ったところ、4割の患者さんは通院のために有給休暇を取得していることがわかりました。そして、わざわざ有給休暇を取って病院に来ても、重症の患者さんの対応に時間がかかってしまうため、待ち時間が長くなってしまうことも、通院しづらい原因になっています。予約の変更が面倒だから通院しなくなったというケースも珍しくありません。また、薬代などの経済的理由もあるでしょう。

私が30年間糖尿病に向き合ってきた中で、糖尿病の治療そのものは大きく進歩しています。しかしながら、患者の意識、そして医療者側の体制はほとんど変わっていません。これをなんとかしないと、糖尿病の重症化を防ぐことができません。特に、働き盛りで病院に来てくれない40代男性に対してどうアプローチするかが、私の中で大きな問題となっています。当院は労災病院という名前が付いている以上、真剣に向き合わなければいけません。

患者の意識を変えることも大切ですが、医療者側も、来院してもらうハードルを下げる努力が必要だと考えるようになりました。

軽症であればオンライン診療でも問題ないかもしれない

そこで、オンライン診療の可能性を考えるようになりました。最初にオンライン診療を知ったのは、約10年前の米国ジョスリン糖尿病センターが通信事業者のAT&T社と協力した取り組みです。米国の場合、病院と自宅の物理的距離が遠く、医療制度の違いもあります。単純な比較はできませんが、日本では先ほど述べたように「近くに病院があるのに時間的に通院できない」という患者さんは多いので、オンライン診療を活用できるかもしれないと考えました。

やがてスマートフォンが普及し、その利便性が飛躍的に向上する中で、オンライン診療を実現しようと具体的に検討するようになりました。2014年には(旧)労働者健康福祉機構の研究の一環として、自己指先穿刺採血キットの郵送による1か月ごとの診察、処方箋発行などを行いました。

この研究を通じて、わかったことがいくつかありました。軽症の糖尿病の場合、血液検査のデータがあり、患者さんでセルフケアができる状態であれば、必ずしも毎月通院する必要がないということです。病院は、どうしても重症化した患者さんに時間を割くことになります。軽症の患者さんで時間的に通院が難しいケースは、オンライン診療を使ってでも、治療を継続していただくことのほうが大切になります。

試験運用を通じて患者さんがオンライン診療の利便性を実感できた

2016年1月から7月にかけて、NTTドコモさんのMediTelの試験運用を実施しました。約70名の患者さんに協力していただき、専用のアプリに体重や血圧、そして自己指先穿刺採血キットを使った血液データがアップロードされます。私たちは、その内容をもとにメッセージを送り、薬物療法中の方には、患者さんの自宅(ご希望の住所)に処方箋を郵送しました。

患者さんは概ね協力的でした。患者さんの72%は、2日に1回はアプリを起動していたことから、体重や血圧の入力を丁寧に行ってくれたと判断できます。実際に患者さんからは、「通院時間や待ち時間を気にしなくてよい」、「心配事があっても先生にメッセージで連絡が取れる」、「小さい子どもがいるので、通院しないのは助かる」、「血液検査結果がスマホで管理できて、先生と共有できるのがよい」、「処方箋が家まで郵送されてくるのが良い」など、好意的な意見が多く寄せられました。

一方で、印象的な出来事もありました。ある患者さんで、試験運用が終わる前に次の受診日の候補をメッセージで送ったのですが、運用が終わったら来院していただけませんでした。そして1年半経ってから、悪化した状態で来院しました。オンライン診療がなくなった途端に治療を中断し、その結果悪化してしまったのです。これは、裏を返せば、オンライン診療があれば治療を継続できたかもしれない、ということです。患者さんの利便性はもちろんですが、いかに治療を継続させるか、悪化させないかという点においても、オンライン診療は大きな可能性を秘めていると思います。

最終的には、自己指先穿刺採血キットによる自己採血は保険適応外と見なされたため、自宅での血液検査は見送っている段階ですが、私たちの取り組みが評価されたおかげか、2018年春の診療報酬改定でオンライン診療が保険適応となりました。「通院時間や待ち時間を気にしなくてよい」という点では、大きな一歩です。

NTTドコモの高い開発力

NTTドコモさんと協力できたのは、私たちにとってもよかったと思います。大手通信事業者として、セキュリティはしっかりしている印象をもっています。患者さんが使いやすいようにアプリのデザインや操作方法を変えていただくだけでなく、現場の意見を取り入れてシステム反映するなどの対応も素早く行ってもらいました。例えば、最初のバージョンでは「今日は誰を診るか」がリストで表示されたのですが、普段私たちは月めくりのカレンダーで「今日は何人診るか」と直感的にチェックしています。それに合わせて、月間のカレンダー表示となるようデザインを変えてもらいました。

オンライン診療は現行医療の欠点を保管するツール

私たちの施設が先鞭を切って、このようなオンライン診療に乗り出したことは誇りに思っています。糖尿病は先手必勝の疾患なので、オンラインでも構わないので、医師の指示を仰いで適切な治療を継続していただくことは、特に軽症の患者さんでは重要になります。糖尿病は、治療が遅れれば遅れるほど病態は悪化し、薬物治療の効果も出にくくなります。早期に発見して介入できれば、症状をかなり抑えることができます。

糖尿病の場合、オンライン診療のターゲットは、治療を受けていない、または中断しやすい患者さんが多い40代男性です。この年代はスマートフォンを使うことに抵抗がないため、相性がよいと思います。患者さんも、利便性を一番実感しやすい年代といえます。また、例えば北海道のように、病院と患者さんの自宅が離れているような地方ではメリットを実感しやすいという他の医師の意見もあります。

当然ながら、重症患者さんは病院で診る必要があるため、すべてがオンライン診療で置き換わるとは考えていません。しかしながら、現行医療の欠点を保管するツールとして、MediTelのようなツールは有用であり、今後広がってほしいと願っています。

「オンライン診療」の未来、MediTelの未来

セカンドオピニオンでの活用

セカンドオピニオンで活用していく予定です。糖尿病の患者さんは、自分が今受けている治療が本当に適切なのか、判断することが困難です。軽症であるほど、自覚症状の改善または悪化を実感できないからです。そこで、気軽に相談できる窓口として、オンライン診療を活用できないか考えています。

糖尿病治療の新しいアプローチ

将来的な話になりますが、インスリン投与患者で血糖測定のデータが送られるようになれば、day-to-dayで(そのときどきで)インスリンの投与量を変えるよう指示を出すことができるようになるかもしれません。処方箋などの課題があるのでオンラインですべて完結するわけではありませんが、新しいアプローチとしてあり得るかもしれません。

医療者の柔軟な働き方

医療者側にとっても、オンライン診療はメリットとなるはずです。病理診断や放射線画像診断の分野では、在宅でそれらを行っている医師がいます。同じように、送られてくるデータの確認や、オンライン診療による対面診断が将来実現すれば、時間や場所にとらわれない、より柔軟な働き方が可能になるでしょう。そのスタート地点としてMediTelがなればと思います。

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